剣士を目指す者、魔術を志す者、神職に携わろうとする者、そして不可思議な力を生まれながらに有する者――それら全てを育成し、各国に送り出す。世界で唯一、各国に中立の立場を貫き、一つの島全体を敷地とする全寮制の名門校――それがセントゥル学園だ。
この学園内では対立する国に生まれようと、卒業するまでは一切のしがらみを捨てて生活する事が義務付けられる。一度入ってしまえば、そんな大義は忘れ去られ、友情で上書きされた確かなものが残る。
言葉は共通言語である《シリング》が用いられる。全ての言語の祖である古い言葉は息を吹き返す。魔法を繰るにも、儀式を行うにも、結局はこの言葉が必要なのだ。剣士の誓いも、自制の暗示も、この言葉でしか意味を為さない。1年の間はとにかくこの言葉を覚える事から始まる。
4月――入学式、進級式、編入式と式典だらけ。その式典において、最も生徒たちが注目するのがエンブレム授与である。エンブレムとは、剣士系《スペード》、神職系《ハート》、魔術師系《ダイヤ》、特殊技能系《クローバー》の中から選ばれた数名に対して贈られる。エンブレムを持つ生徒は学内でさまざまな優遇を受ける。学費や諸経費=全て学園持ち、特別にしつらえた専用の寮で生活する。全生徒憧れの存在なのだ。
「エンブレム授与、《スペード》A、エセル=ローエングラム」
「はい」
呼ばれて壇上に上がったのは小柄な少年。褐色の肌に緑の髪、キリッとした横顔に視線をやると輝く黄金の瞳に釘付になる。黄金の瞳は聖なる武具や装飾品の持ち主である証なのだ。『聖剣に選ばれし者』という異名を持つ所以を実際に目の当たりにする。
「《スペード》K、ヒュークリッド=レイサム」
「はい」
呼ばれて壇上に上がったのは長身の美青年。長い銀髪を一つに束ねている。スッとお辞儀をするが、その所作は優雅で貴族のソレだった。
「《スペード》Q、キリー=ヴェルビュー」
「はい」
短く刈り込まれた髪は赤。ルビーのような瞳ははっきりとその意志の強さが現れていた。女性の身でありながら男性でもどうかと思う大剣を振るう『赤髪の戦姫』だ。
「ここにエンブレムを授与する。以上3名、唱和を!」
3名は各々剣を抜き、剣先を中心に合わせる様に掲げる。
「「強さとは、守るべきものありてこその強さと知れ!」」
「我ら、学園に安寧の訪れを誓う!」
エセルの言葉で剣が鞘に収められ、3人は壇上から下りる。心なしかエセルの頬に朱が走っていた様に見える。
エンブレムの授与が全て終わると、再び壇上に退場したばかりの《クローバー》のA・シオン=リュークが上がる。
「Jは元より、空位が多いのは承知してるよな?エンブレムに空きが出るというのはお前達のレベルが低いのか、めぐり合わせか。どちらにせよ、早急にこの穴は埋めるべきだと俺は思う。そこで、だ。エンブレムを賭けて俺達と勝負をしてもらいたい」
この言葉に生徒は沸いた。
「良く言ったシオン!」
「マキュアちゃん!」
賛同したのは《ハート》の教師・マキュア=プレザントだった。
「どうだろう?3年の最初の演習、これにエンブレムの所持者を参加させると言うのは?」
「反対だ。くだらん事で式を中断させるな」
「クライフ先生、僕もシオンの意見に賛成です」
「ルーエくん、君まで…」
《ハート》A・ルーエ=ファリーニは天使のような微笑でクライフの怒りの感情を削いだ。
「どうだろう?ここでカードを切ろう」
「ルーエの言う通りだ。俺はカードを切る」
シオンは《クローバー・A》のカードを掲げた。
「僕も切る」
ルーエは《ハート・A》のカードを掲げる。
「俺は反対だ」
エセルが宣言する。
「同じく反対だ」
「同じく」
ヒュークリッド、キリーが意見を同じくする。
「わたくしも反対致します」
《ハート》のQ・クリシュ=レビカントが続く。
「シャーヤ、お前どうする?」
シオンは自分のQに訊く。
「拒否します」
「不参加、ね。トリスタンは欠席…となると――」
「シオン、反対が4、辞退が2だ。アルソー、お前はどうする?」
ヒュークリッドが灰色の髪の青年、《ハート》のK・アルソー=レーヴに問う。
「ん〜そうやなぁ…」
「ベルは賛成!」
その時、突然《ダイヤ・A》のカードが掲げられた。
「じゃあ、僕も賛成」
アルソーも《ハート・K》のカードを掲げる。
「4対4――だけど、こちらはAが3枚。この意見、通させてもらうよ」
ルーエが話をまとめた。
「では、3年生の皆さん、覚悟して臨むように。以上!」
シオンが壇上を飛び降りる。ルーエはペコリとお辞儀をして退場する。
こうして、3年生最初の演習はエンブレム所持者達と新しいエンブレム所持者の座を賭けて争う事になったのである。
BY氷高颯矢
始まりました!
後は参加者様の協力次第で物語は続くよ。
あぁ、楽しみ♪
ちなみにエンブレム所持者はみんな大好きです。
まぁ、あえてどこが?と言われたら《クローバー》ですかね。
女の子ではシャーヤが好きなのです。(*兄込みでね。)